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「不運な女」 リチャード・ブローティガン



 村上春樹氏の文体に影響を与え、柴田元幸氏を驚かせたという、リチャード・ブローティガンの作品を翻訳した藤本和子さん。<藤本和子『リチャード・ブローティガン』> これまで本屋でパラパラ目を通したことはあってもきちんと読んだことはなかったので、今回この「不運な女」にばったり出会ってよかったと思う。未整理の遺品が入っていた箱の中から見つかった小説だという。

 とにかく読んでいることが気持ちがよく、このままずっとこの人の話を聞いていてもかまわないという気分だった。内容としては「一人の男が二、三ヶ月間生きた様子をたどる経路についてのもの」であり、「一定のときの経過のなかで、どのようなことが起こりうるかを、そしてそこになんらかの意味があるとしたら、それは何であるかを書いてみるという」話だ。

 決して明るく楽しい話ではない。でも独特のユーモアがあり、どうかするともの悲しく思えるような滑稽さに惹きつけられる。努力をしても辿りつけないものがあって、結局語ることのできない物語があるという悲しみもある。ただ、語り得るものたちは、どれも生き生きとして、どうしてそんなことになっちゃったの? それでさっきの話は? と声をかけたくなるような優しい感じなのだ。

 ほかの作品を読んでいないので何とも言えないけれど、これを読むかぎり、この人の書く文章はいいなと思ったし、夜中にスパゲッティ・ソースを作りはじめるところなどはこの上なく好きだ。

 訳者あとがきに、「この『不運な女』を翻訳するのは難しい仕事だった。その理由がわからなくて、わたしはしばらくうろたえていた」とあったのが印象的だった。分量の問題ではないし、実際本文は150ページに満たない。それは著者の数々の作品を訳してきているがゆえの、以前とは少し変わったものを目にしたがためのとまどいだったようだ。「句読点を打つ場所の選択に違いがあったり、文節の配置に変化が見える」ということも含めて理解なさったものがこの翻訳だと思うと、思わずため息が出るし、ありがたい気持ちになる。

 やっぱり「アメリカの鱒釣り」は読んでおくべきだろうと思っている。


リチャード・ブローティガンの書籍

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テーマ: 海外小説・翻訳本 - ジャンル: 小説・文学